
【目次】
(1)人事制度改革とは?
(2)人事制度の不可逆性
(3)人事制度の概要
(4)人事制度の種類
(5)職務等級制度とジョブ型(?)人事制度
(6)職能資格制度から役割等級制度へ!
(7)人事制度改革のステップ
(8)不利益変更は許されるのか?
(9)人事制度改革の阻害要因
(10)人事制度改革の実施時期
(1)人事制度改革とは?
人事制度改革とは,民間企業や公的機関で働く社員や職員(以下,「社員等」とします)の処遇・待遇の仕組みが現状に合わなくなったときに行う規制改革のことです。
新型コロナウイルスの拡大とそれに伴うテレワークやネットショッピングの普及,少子高齢化の進展とそれに伴う慢性的な人材不足,経済のグローバル化によるボーダレスな企業間・国際間競争の激化,ICTやDX化の進展等,現在は社会環境が大きく変化しています。このような社会環境の変化によって従来の社員等の仕組みは現状に合わなくなっています。
そのため,レガシーな人材処遇の仕組みを撤廃して新しいルールをつくる必要性があり,それが人事制度改革なのです。
狭義の定義では,人事制度改革は社員の賃金決定の枠組みを変更することと言ってもかまいません。
つまり,職能資格制度は「職能」を基準に,職務等級制度は「仕事」を基準に,役割等級制度は「役割」を基準に従前の基準を変更することを意味します。
したがって,時々耳にする「シフト制の導入」や「フレックスタイム制,変形労働時間制の導入」,「短時間正社員制度の導入」等は人事制度改革とは言いません。まして,コロナ禍になり急速に普及したテレワークは人事制度改革には当たりません。これらは単に労働時間を柔軟に運用することによって働き方を変えるだけに過ぎないからです。
(2)人事制度の不可逆性
人事制度は,文化や社会経済のようにその時代を反映して不可逆的に進化していくものです。日本の人事制度は終戦後から現在まで何度かの出来事を経験して変化を遂げてきました。つまり,時代背景なしに人事制度史は語れないのです。

この図表のように,人事制度は現在まで大きく4つの時代に分類することができます。
1番目の「総合勘案決定制度」は,終戦後の生活困窮の中で衣食住を求める社員の要求にこたえる仕組みとして導入されました。1945年~1960年の約15年間,政府は終戦後の荒廃した社会インフラの構築に没頭し,民間企業は生きるために必要な産業を中心に操業を再開し,そこで働く社員の基本的欲求を満たすために年功と諸手当を中心とした賃金体系をつくり人事制度の柱にしていました。企業は年功序列賃金,終身雇用,企業内組合を3種の神器として長い間堅持していました。
2番目の「職能資格制度」は,1960年代池田内閣による国民所得倍増計画で高度経済成長を達成したときの人事制度です。旧労働省を1970年に退官した楠田丘が定昇制度をベースに論理的な仕組みを構築した賃金理論です。
1960年~1975年は,戦後の混乱期を脱した日本政府が製造業を原動力として2桁の経済成長を遂げた時期です。企業経営者は「つくれば売れる」を合言葉に長時間労働を苦にせずに働く人材が優秀人材という評価を下していました。
しかし,1973年と1974年に勃発した2度にわたるオイルショックを契機に日本経済は,「つくれば売れる」時代から「付加価値の高い物しか売れない」時代になり,その後長期間低成長時代が続きました。
3番目の「職務等級制度」(Job grading system)は,ヘイ・コンサルティンググループの創始者エドワード・ヘイが1943年に考案した職務評価手法「ヘイ・ガイドチャート」を使って職務を序列化し等級格づけした職務等級に現職者を当てはめて給与を合理的に決定する仕組みです。現在全世界の17,000社,1,500万人に適用されています。日本企業は経済低迷期の1975年~1990年まで職能資格制度や職務等級制度などの導入で試行錯誤していた時期でした。
そして,1991年3月のバルブ経済崩壊以降長期的な景気低迷の中で,経済成長を前提にした定昇制度と能力主義が形骸化し,4番目の「役割等級制度」が注目されるようになりました。その理由は,21世紀になり経営環境の変化のスピードが一段と速くなり,AI,IoT,ICTの発達が働き方改革を押し進めた結果,経営計画達成と社員のキャリア形成を両立させる役割等級制度の導入企業が増加したということです。
以上が人事制度史の概要ですが,ご興味のある方は近々出版予定の拙著「役割等級制度のつくり方」をご覧ください。
(3)人事制度の概要
次に人事制度の構成要件について説明いたします。人事制度は,等級制度,評価制度,給与制度という3つの制度から構成されています。社員は,これらの仕組みによって働く意欲を向上させ昇格によってより高いレベルで能力を発揮し役割を遂行する機会を得ることができます。

等級制度
等級制度は,会社が経営計画を達成するために等級ごとに期待する役割を定義した社員の立ち位置を示したもので,「役割等級基準表」 に定義されます。
評価制度
評価制度は,仕事を通して期待される成果を社員が達成できたかどうかを客観的に判断する基準として成果と行動について公平かつ公正に評価する制度です。
評価結果は,社員の活躍に応じて昇格や昇進,給与改定,賞与等に反映されます。


給与制度
給与制度は,評価結果を給与に反映することにより社員の意欲の向上を図った仕組みです。
(4)人事制度の種類

この人事制度の概念図を見てわかるように,会社内で働く社員の処遇を決める仕組みである人事制度で一番重要なのは,三角形の中央に配置した「社員の納得性」です。人事制度がいくら精密なものであっても会社推進の原動力になる社員の納得性が得られない仕組みは「形つくって魂入らず」といわれるように,全く意味のないものです。人事制度のポリシーは「公平」「公正」「納得性」の3つの要素が満たされているものです。この中で一番重要なことは社員が自分たちを評価するメカニズムに納得できるかという点です。
したがって,新旧問わず社員満足度の高い人事制度は必ず社員が納得し,人事制度を「自分たちのもの」として人に誇れるものということができます。
しかし,そうはいっても時代の変化に対応できなくなった仕組みや慣行は時代の要求に即して変えていく必要があることも事実です。
ここでは,先述した「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」という3種類の人事制度の特徴について図表にまとめました。

3つの人事制度を比較してわかるように,各制度はそれぞれ考案されたときの時代背景が色濃く反映されています。つまり,職能資格制度は戦後の社会経済混乱期において政府も労働者も経営者もひたすら貧困状態からの脱却を目指した復興期の産物といえます。職能資格制度は,1970年に旧労働省を退官し日本生産性本部の理事を務めた楠田丘氏が考案した賃金理論です。それは,定昇制度を中核に置いた年功序列型の賃金を特徴とし,1960年代の日本の高度経済成長を支えた人(ひと)基準の人事制度といえます。職能資格制度の優れた点は,いわゆる年功を基準とする定昇理論が今日の春闘にまで影響を及ぼしていることでわかると思います。
その意味で職能資格制度は,日本の代表的人事制度といえます。なお定昇制度は,1954年に関東経営者協会賃金委員会が「定期昇給制度」の確立を提案した頃から1955年にかけて各産業や企業で確立されていきました。その後,毎年の昇給は,「定期昇給(いわゆる「定昇」)」プラス「ベース・アップ」(いわゆる「ベア」)という形で行われるようになり,現在に至っています。
ついでに,定昇とベアについて簡単にふれておきます。定昇とは,毎年4月になると年齢が1才上がり,担当する仕事に対して習熟度も1才分深まり生産性も上がるという考えから1年分の昇給を行うという性善説の理論です。
ただし昇給は人事評価によって決まるため,定昇は年齢給+勤続給(現在勤続給を続けている会社は少数派)+評価結果という算式で表すことができます。
ちなみに,著者が以前勤務していた外資系企業(本社はアメリカ東部のニュージャージー州)の人事担当バイスプレジデントが来日した際,昇給のメカニズムを質問されたので,上述のように答えたところ,「That’s automatically raise, you’r crazy! (それは自動昇給ではないか,日本企業の人事担当者は頭がおかしい!)」といわれた経験があります。
つまり,それくらい合理的考えが浸透している国民にとって,日本の定昇システムは不思議な理屈なのだと思います。
他方ベアは,主に消費者物価上昇率の補填によって以前と同等の生活レベルを保つという意味で,今日の春闘における労組の賃上げ要求の1つの根拠とされてきた理論です。
3種類それぞれの人事制度のメリットとデメリットを見比べると特徴が明確になります。目につく問題点は,給与と職位や等級,給与と仕事,給与と役割のミスマッチという点です。「ミスマッチ」の具体例は,社員から「あんな仕事ぶりでも結構いい給与をもらっているって噂だよ」とか「いい給与もらっているんだから,もっと仕事をしてほしいね」などという陰口をたたかれている課長や部長がどの会社にも1人や2人はいるということです。
職能資格制度の特徴である「年功(年齢と勤続の意味)序列賃金」は,理論的根拠が社員のライフステージ別の昇格昇給にあることがそもそもの問題なのですが,そのことが日本の高度成長期に合った理論であったため,その当時はそれがベストだったのかもしれません。なお,今も同じ仕組みを導入している企業も存在します。
(5)職務等級制度とジョブ型(?)人事制度
日本の代表的人事制度である職能資格制度については前節でも触れたため,ここでは職務等級制度と最近話題になった「ジョブ型人事制度」について解説いたします。
職務等級制度は,Job grading systemの日本語訳で1943年にアメリカ・フィラデルフィアで創業したヘイコンサルティンググループのエドワード・ヘイが考案した職務評価手法として有名かつ権威ある理論です。職務(JOB)のひとつ1つを重要度・困難度・緊急度・貢献度によって「Hay Guide Chart ヘイ・ガイドチャート」と呼ばれるスケール(職務評価基準)を使って点数化することにより会社内のすべての職務について職務等級が決まるという仕組みです。具体的には,すべての職務を点数の高い順に並べ,一番下のポイント(ヘイ・ポイントと呼ぶいます)から順番に最高点の職務までを15%ずつ区切り,一番下の1等級から最高位の,例えば16等級までの階段をつくります。言い換えると1等級~16等級までの16段階の職務等級ができるわけです。出来あがったJob Grade(職務等級)を管理職Exempt(イグゼンプトと呼びます)と非管理職Non-exempt(ノン・イグゼンプトと呼びます)に分割し,さらにそれぞれの等級を括って組織上の職位(役職)をつけて完成させます。
職務等級制度は,労働の価値を「人」や「能力」といった曖昧な属人的要素ではなく,「職務」に求めた人事制度理論で,その根底にはアメリカの人種差別問題があります。その理念は1951年に国連で採択されたILO100号条約の「同一労働同一賃金」に結びつき,さらに日本の働き方改革につながっていったといえるででしょう。
職務,つまり仕事によって報酬が決まる合理的な仕組みの職務等級は,わかりやすく言うと,スーパーやデパートに陳列してある商品に値札がついているように,会社内のすべての仕事に値札が付いているのです。そこで働く社員は誰もが自分の仕事の値段を知って働いているため,それなりに満足して働いているわけです。キャリアアップして今よりもレベルの高い仕事をしたい,あるいは今より高い報酬を得たいと思えば,今の職務等級よりも上位の等級の仕事にチャレンジすればいいのです。そのための社内制度がJob Posting制度「(ジョブ・ポスティング制度・社内公募制)」といい,社員の向上心と努力によって達成可能な,実にアメリカらしい合理的な制度なのです。
ところで,日本では3月になると春闘が話題に上り,ニュース解説者やコメンテーターを務める大学教授などが日本の伝統的行事の春闘を「欧米社会」と比べてどうこうと論評するのを耳にすることがあります。春に賃上げ闘争を行う日本の春闘は,先述したように人事制度の基幹システムとしての定昇理論の実践であるのに対して,アメリカには「定期的に昇給する」という概念はまったくありません。アメリカの人事制度は仕事のレベルによって報酬が決まっているため,労働者の年齢が1才上がったからといって報酬を上げなければならないという習慣がないからです。あくまでも仕事に対する価格がJob Grading (職務等級)なのです。職務や地位が変わらない限り昇給などしません。
対して,ヨーロッパの人事制度はどうなっているのかというと,ヨーロッパと一口に言ってもそこには約50ヵ国の主権国家が存在し人事制度もそれぞれの特徴を持っているため,ここでは概要について説明いたします。
西ヨーロッパでは,中世から近世にかけて都市で発達したギルドと呼ばれる職業別組合が存在していました。商人や手工業者などの商工業者の間で各種の職業別組合を結成し産業革命まではこれらのギルドが商工業の中心的存在でした。また,手工業者の靴や革製造,紡績,鉄工,大工等の職業別ギルドは,親方の下に職人,徒弟,という階層を持つ徒弟制度をつくっていました。こうした階層別組織の中で市民権を持つ親方になるためには親方の指導の下,早く仕事を覚えて一人前になるために努力していました。このような労働環境で市民革命を成功させ近代的な工業化を成功させた歴史がヨーロッパの現在の企業の中に流れています。ドイツを中核とするヨーロッパの企業の人事制度には経験を重視するセニョリティ(年功序列制)が残っているのは,その名残といえます。
このように各国の歴史を土台にして企業内の人事制度が形成されてきたため,一概に「欧米の人事制度」という表現は適切と言えないのです。
さらに最近時々耳にする「ジョブ型人事制度」はイメージだけが先行し,理論的根拠やメカニズムが確立されていない未知の仕組みです。これまで述べてきたように人事制度は社員の処遇・待遇の仕組みです。採用時に提示した労働条件の就業規則を企業側の論理だけで勝手に変えた結果,給与や職位が不利益に変更されたということがあってはいけないのです。人事制度改革による社員の労働条件の不利益変更には厳しい制約があります。これは後述しますが,ジョブ型人事制度」などという名称やイメージ先行の人事制度を流行に乗って導入することは社会的制裁があることを肝に銘じる必要があります。
(6)職能資格制度から役割等級制度へ!
第2章「人事制度の不可逆性」で記述しましたように,現在は筆者が推奨する役割等級制度が主流になりつつありますが,未だに半世紀前に考案した職能資格制度を運用している会社もあるため,両者の特徴を比較してみました。
大きく違う点は,職能資格制度が「年齢」を基準にした仕組みであるのに対して,役割等級制度は経営計画達成の「役割」を基準に考えた仕組みであるという点です。
昭和の時代に考案した職能資格制度は,高校や大学を卒業し会社に就職する18歳や22歳の新入社員から定年退職の60歳か65歳までの年齢別ライフステージ(
就職ー結婚ー第1子誕生ー第2子誕生ー管理職昇進ー定年退職)に合わせて段階的に昇進・昇格や昇給を続ける設計をとっています。
また,当時の就業スタイルは今とは全く異なっており,女子社員は結婚退職が前提で就職するような時代でした。つまり,現在のような少子高齢化も夫婦共働きも進んでいない時代であったため,男子社員は結婚して配偶者を持つと,扶養手当が支給され,2年後に第1子が生まれると更に扶養手当が支給され,所定内給与がいくらになるなどといったモデルライフステージを想定した給与制度です。
そのため,同じ仕事内容であっても独身か既婚かによって給与に差がつくなどの不合理な待遇差が当然視されていました。これはつい最近,働き方改革で問題になった「同一労働同一賃金」ルールに反した事例といえます。
他方,DX化の進んだ現在では社員のライフステージに合わせて人件費を決めるという考えではなく,会社が成長・発展し業績を上げて人件費予算を捻出するという構図が賃金理論の中心になります。いわゆる「成長と分配の好循環」とそのための恒常的な賃上げも会社の成長・発展なくしては考えられないという理論です。
しかし,だからといって会社の一方的な企業側の論理で社員を使い捨てするようなブラック企業は社会から排除されるべきです。そこで登場したのが会社の最終目的としての経営計画の達成と社員の最終目的であるキャリア形成を両立させるという考えです。
役割等級制度は,人によっては解釈が違うかもしれませんが,少なくとも筆者が2003年に大塚商会と日本IBM共催の「人事戦略セミナー」で講演したときに発表した役割等級制度の理論的根拠は上述のとおりです。下図は両者の制度の違いを項目別に比較し図表にまとめたものです。時々,「職能資格制度と役割等級制度はあまり違いがないのではないか」と論述している人を見かけますが,このように両社は大きく違っているといえます。

(7)人事制度改革のステップ
繰り返しますが,人事制度は社員の処遇・待遇を決める仕組みです。したがって,社員を採用するときには始・終業時刻や休日・休憩時間,給与計算期間や給与支給日等の就業規則に書かれている表面的説明だけでなく,昇給や昇進,昇格のメカニズム等応募者が訊きたくても訊きづらいことを丁寧に説明し,入社後のモチベーションを下げることのないよう配慮することが,優良企業としての採用条件と考えていいと思います。
他方,人事制度改革は既存社員に対しては在籍期間途中の労働条件の変更に当たるため,会社側の一方的な理屈で不利益になる可能性を含む労働条件の変更は
許されないことは労働契約法第9条にも明記されていることです。
したがって,人によっては人事制度改革が処遇の不利益変更になることを踏まえ,後の労使紛争や訴訟リスクを回避するためにも図表に示した手順を踏みながら社員に丁寧に説明しながら行う必要があります。

(8)不利益変更は許されるのか?
これまで述べてきたように,人事制度改革は社員の勤続途中に労働条件を変更することを意味します。労働契約の中身である労働条件を変更する場合には社員の合意がなければできません。そのことは労働契約法第8条に明記されています。
また,労働条件の変更は就業規則の変更に当たり,労働者(社員)の不利益になる労働条件変更は原則できないことが労働契約法第9条に規定されています。
では,どのような場合にも社員の勤続途中における労働条件の不利益変更はできないのかというとそうではなく,例外的に認められているのが唯一,人事制度改革なのです。
そのことは同じく労働契約法第10条に書かれていますが,条文の表現が少し難解なため,いつくかの裁判例(最高裁判決は「判例」と呼んでいます)を挙げて解説いたします。
人事制度改革は,社員が採用時に会社と契約した労働条件の中で最も重要な賃金の決定方法を変更することができる手段です。
これまでに労使紛争になった事件の最高裁判決の内,人事制度改革に関する法理を成文化したものが労働契約法第10条です。第10条をわかりやすく図式化すると以下のように表現できます。

人事制度改革は賃金の決定方法の変更を意味しますが,人事制度改革によってたとえ不利益な処遇になる社員が出たとしても,
①労働条件変更の必要性②社員の不利益の程度③変更内容の相当性という3つの要件が担保されれば,就業規則が労働条件を統一的かつ画一的に規定化したものである限り,その人事制度変革は合理的なものだと判断されるというものです。
この元になる判例は,平成9年(1997年)2月28日の最高裁第二小法廷判決における第四銀行事件です。判旨は次のとおりです。

以上のことを要約すると次のようになります。
人事制度改革は社員の勤続途中における労働条件の変更を意味するものであり,人事制度改革の中身が上記の3つの条件を満たせば合理的と判断されるということです。実務的には以下の手順を踏んで社員に変更内容を説明しながら実施することが社員の納得性を高めるとともに,変更の必要性や変更内容の相当性も確保することにつながります。
人事制度改革の具体的な手順は,まず現状を分析することにより問題を抽出します。
それから問題の所在がどこにあるのかを再分析し,等級制度(社員の立ち位置である職位や役割),評価制度(一定期間における成果と教育効果の確認),さらに給与制度(給与の決定基準が時代遅れになっていないか,昇給,昇進,昇格のメカニズムを社員に周知しているか,また,社員が納得できるメカニズムで給与や昇給が決定されているか),その他の制度(狭義の人事制度以外の問題)に分類し,問題解決のスケジュールを立てます。
その中で今期中に実施すべき項目や来期以降に実施する事項等を優先順位にしたがって決定します。
最後に,問題解決のための重点実施事項を時系列に並べてスケジュール化したリストを経営会議や取締役会にかけて承認をとります。後は,スケジュールに沿って実行するだけです。

(9)人事制度改革の阻害要因
このように人事制度改革は,現状分析を行うことから実施計画を立てて実行に移すところまで一気通貫に行うことが変化のスピードに合った方法ということができます。「やろうと思っていても,なかなか手がつかなくて・・・・」などと「できない理由」を並べても何の意味もありません。
マーケットニーズに即した商品開発やサービスは対応できても,企業で働く社員の納得性や満足度を充足させることが後回しになると,優秀な人材から企業を見限って競合他社に転職することもあり得る時代です。いいと思ったら即実行することが変化のスピードが速い時代の心構えといえるのです。

(10)人事制度改革の実施時期
人事制度改革は速いほどいいと言いましたが,この章ではなぜそのように思うかについて説明いたします。その理由は,環境変化のスピードが著しく速い現代では意思決定の速さが人や会社の命運を決めるからです。
いいと思ったことはすぐに計画を立てて実践していくことがグローバル競争の必勝法なのです。「近い将来,経営環境や予算等の条件が整った時に実施しよう」などと考えていては既に手遅れになってしまいます。他社に先を越されてしまうからです。
また,「同業他社の様子を見てからでも遅くない」などという発想は,差別化という観点からだけではなく二番手をめざす気持の現れであり何の解決手段にもなりません。
「自社が先頭に立って業界を引っ張る」という意気込みがあれば,他社の動向は気にならないはずです。
先ずスタートを切って65点の成果を出す。その後で走りながら修正を重ねていけば,いずれ完璧なシステムができ上がります。
とにかく始めることが一番なのです。
今から約2,500年前小国が群雄割拠していた中国春秋時代,兵法家孫武が書いたとされる兵法書「孫子の兵法」には,有名な次の一文があります。

この格言を要約すると次のようになります。
「戦争は短期決戦によって早期収束を図るのがいい。長期化すると軍は疲弊し士気も衰え,戦力が低下する。短期決戦で成功した例は聞いても,長期戦で成功した事例は知らない」と。
つまり,時間はコストなのです。戦争は長期戦になれば時間を浪費することになります。同様に,現代のビジネス社会では,だらだらと仕事をせずに期日を決めて行えば短期間でできるようになります。
このように孫子の兵法は,弱肉強食時代の生き残りのための経営戦略の書として多くの経営者に愛読されているのです。皆さんも是非この孫武の教えを実践してみてください。物事に対する取り組み姿勢が見違えるほど改善するはずです。

